政策
2016年2月4日
政策雑感(12)
私は長い間経済政策の担当を閣僚としてやった。
そこで政府・政治が持っている「政策手段」とはいったい何か、それには限界があるということを御紹介いたしたい。
ここでいう経済対策というのは、目前に直面している不況または予想される厳しい不況にどう対応していくかということで、長期的な日本の強い経済を作るための政策とは切り離して考えてみよう。
- 財政と経済
不況になると必ず「政府は何をやっているんだ、予算を増やせ、政府主導で需要を喚起せよ」という意見が出てくる。小渕時代には非常に大量の公共事業をやって、政府が有効需要を創出した。勿論GDPにはそれなりに貢献した。でも時代はまったく変わってしまっていて、昔の公共事業のように「政府の支出が糸口となって次々と需要を生み出し設備投資も増加する」ということは、もはや期待できなくなっている。この事実は統計の上からはっきりしている。日本の経済は成熟しいわゆる「波及効果」がなくなってしまっている。
例えば1兆円使えば確かに需要は1兆円増えるが、その需要が次の需要や設備投資を生まなくなっている。経済が成熟してしまっているとも言えるし、供給が過剰な時は設備投資も生まないともいえる。
さてこの1兆円はどこから持ってくるのかという、なやましい問題の結論は一つである。すなわち国債という借金によってしか賄えない。予想以上に税収が上がったからそれを使うというが、本来それは借金を返すための原資である。公共事業を増やして一時的に効果はでる、それに甘えてもっとやれという話は財源を考えない無責任な話なのである。(勿論災害復旧などは例外である)
まとめると次の三点である。 - 公共事業は昔の様な波及効果はない。
- 財源は国債であって、財政規律が緩む。
- お金を使うのにふさわしい「良い事業」というものはなかなか見つけられない。
- 金融政策と経済
金融政策は日本銀行が担う。政府は当然のこととして期待や希望は伝えるが、強要はできない。欧米先進国と同じように日銀も中央銀行としての独立性を有する。
今日銀行の取り組んでいることは次の通りである。 - 金利をゼロ付近に止める。従ってさらに金利を下げて景気を良くするということは出来ない。なぜならばゼロのものはそれ以上下げられない。(勿論マイナス金利というものは理論的には存在するが)簡単に言えば銀行にお金を預けるとマイナス金利、すなわちお金をとられることになる。
- 買いオペをやってどんどん「お金を市場に供給しろ」という意見がある。
これは日銀の資産購入ということで年間80兆円もの国債を市場から吸い上げている。リートにも手を出しているし、株も数兆円の規模で保有している。これだけお金が借りやすくなっているのに企業は設備投資をしない。なぜだろう。それは売れる物を作っても買う人がいない、需要がないからである。設備投資が起きるのは、「需要」があり、またイノベーションによって、「新規分野」が期待される時だけである。あるいは古い設備を更新する時である。鐘や太鼓で設備投資をやれといっても雀は踊らない。 - その他の金融緩和策でも、銀行も企業も動かない。
以上述べた金融政策には、やはり副作用が伴う。一つは日銀のバランスシートが大きくなりすぎる。実は何をしているのかという本質を見るとお金を「印刷」しているだけなのである。こんなことを長く続けられないのは誰でも判る。通貨インフレの種を蒔いていることを、日銀は判っているのだろうか。日銀が年に80兆円も国債を買うと、国民は日銀はいったいどういう存在なのかと疑う。また政治は面倒な消費税アップより日銀に頼った方が楽だと思ってしまう。財政健全化の努力をやめてしまいたいと考えるようになる。
もう日銀は有効な手段を持っていないと私は判断している。 - その他の手段と経済
たったひと時経済が良くなっても、その明るさが直ぐ消えてしまう政策をとっても仕方がない。長期的に日本の経済の力が真に強くなる、そういう政策を取るべきである。気がついたその幾つかを並べてみよう。 - 研究開発投資をどんどんやってもらうために税制上の優遇措置。
- 設備投資減税
- 大学教育のレベル向上
- 日本人の英語力の向上
- 新しく企業を作る人に政府金融機関からの有利な貸し出し
- 海外の事業に関する輸出金融
- 残されたFTAの早期締結
- 規制緩和
以上のような事が頭に浮かぶが、やはり新規分野で圧倒的な力を持つ国にしたい。私はそう願う。
以上